弁護士ドットコムニュースにコメントした記事が公開されています。
「極ゼロ」企業努力は泡となるか…国に115億円返還求め提訴、酒税のあり方を考察
上記記事について補足したいと思います。
サッポロがいわゆる「第三のビール」として発売した旧「極ゼロ」が、
第三のビールに該当しないと国税当局(税務署)が指摘したため、
サッポロは、修正申告して、いったんは約115億円を納税しました。
サッポロは、再検討の結果、やはり「第三のビール」にあたるはずだとして、税務署長に「更正の請求」を行いました。
「更正の請求」というのは、税務署長に対して、納税者に有利に課税処分を変更するよう求める手続です。
しかし、税務署長は、更正する理由はないとして、更正の請求をしませんでした。
そのため、サッポロは、税務署長の更正の理由がないとの通知処分を取り消すことを求めて、裁判所に訴訟を起こしました。この訴訟提起が、このたびニュースになりました。サッポロもホームページにニュースリリースを出しています。
そのニュースについてコメントしたのが上記の記事です。
ニュースリリース等では出ていませんが、
更正の理由がないとの通知処分の取消請求の他に、
おそらくは、税務署長に更正を義務付ける請求も訴訟でやっていると思います。
酒税というのは、酒類の種類等に応じて、日本国内で製造される酒類であれば、製造者つまりメーカーに対して、酒蔵から出庫した数量に応じて課せられている国税です。
消費者に課されている税金ではないですが、この課税分は、当然ながら、小売価格に反映します。税金分が赤字になるような商品をメーカーは売れませんから。
酒税法は、酒の種類によって課される税金が違ってきます。
酒税法では、酒類の酒類はおおまかに4つに分類されます。
ビール、発泡酒、第三のビールは、酒税法では「発泡性酒類」に分類されます。
ビールには、発泡性酒類の基本税率が適用されることになっています。
発泡酒や第三のビールについては、軽減税率の規定が適用されます。
というより、軽減税率の適用を受けるように、「発泡酒」や「第三のビール」を作っているのです。
酒税法では、1キロリットルつまり1000リットルあたりいくらの酒税という定められ方をしています。
それだと分かりにくいので、1缶350mlあたりに換算して表現するのが、ニュース等でよく見る数字です。
ビールは、350mlあたり77円(酒税法23条1項1号)の酒税がかかっています。
多くの発泡酒(麦芽比率25%未満のもの)だと350mlあたり47円(同条2項2号)です。
第三のビールとか新ジャンルなどと言われるものには、350mlあたり28円(同項3号)です。
酒税法では、大まかにいうと、
ビールは、ホップと水以外の原料が麦芽100%か、その他の原料を含む場合は麦芽の重量の半分以下のものをいいます(酒税法3条12号)。この後半の定義から、麦芽が3分の2以上ということが言われることになります。
発泡酒は、麦芽または麦を原料とした酒類でビール等に該当しないものです(酒税法3条18号)。
第三のビールや新ジャンルなどと言われているものは、大豆やエンドウ豆、とうもろこし等を原料としたもの(酒税法23条2項3号イ)や、発泡酒にスピリッツ(蒸留酒)を加えたものです(酒税法23条2項3号ロ)。
細かい話ですが、第三のビールで、エンドウ等を原料としたものが醸造酒の一種で、スピリッツを加えたものをリキュールの一種というような説明を見掛けます。しかし、酒税法の定義からは、醸造酒やリキュールは、発泡性酒類を除くものと規定されていますから、正しい説明ではありません。
参考までに条文を載せます。飛ばして読んでいただいても大丈夫です。
酒税法
このように、ややこしい酒税の課され方になっているのは、もともと高級品だったビール等の酒類に高い税金を掛けて、そこまでの税率がかからない発泡酒が売れると、発泡酒の税金を上げることにしたため、今度は第三のビール(あるいは第四のビール)とか新ジャンルと言われるものが開発されたという流れもあるからです。
こういった複雑な課税については批判もあることから、平成29年3月成立の酒税法の改正で、段階的に税率を変更し、平成38年10月1日からは350mlに対して約54円に統一されることが決まりました。
そうなると、ビールについては減税になり、発泡酒や第三のビールについては増税になることになります。
そもそも、ビール等が高級品だった時代に富裕層から多く税金を取ろうという趣旨だった酒税法の合理性は、今の時代には消滅しているでしょう。
また、原料の違いや酒類の違いで課税される金額が異なることになっていることついて、一般の国民が納得できるだけの合理的理由はないと思います。
製造時に課された酒税は、本体価格に反映されますから、酒税分についても消費税が掛かっていることになり、税金の二重取りになっているように思えます。
酒税収入は、下がっているとはいえ平成27年度で1兆3000億円ありましたから、国としては手放せない財源でしょう。
しかし、課することに合理性のなくなった税金は課すことを正当化できないでしょうし、消費税負担が増す国民としては、酒税自体が廃止される恩恵もあるでしょう。
私としては、酒税自体は廃止かばっさりとした簡素化が必要だと思っています。
極ゼロの裁判の話に戻ると、酒税法23条2項3号ロのその他の発泡性酒類に該当するかどうか、該当しないとなると発泡酒類の基本税率(ビールと同じ扱い)が課されることになるというところの争いです。
本件に限らず、裁判は、どのような主張・立証がなされているかが分からないと、報道だけでは具体的なことは分からないものです。
製法や成分での争いになっているとは思いますが、国税不服審判所の裁決書は公表されていないようですので、今のところは確認できません。
メーカーの企業努力に酒税法の規定が追いついていないのでしょう。
もしそうならば、今の酒税法の規定は、課税要件明確主義(課税要件はあらかじめ明確でなければならないという原則 憲法84条)から見ても問題の大きいものになっていると思います。
第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
本件のように、日本独自の税制に縛られて国内消費者向けの開発競争を行ったために海外向けの製品開発が遅れたとも言われています。税制のために企業の自由な開発や競争が阻害されているのではないかと思います。
本件とは離れますが、酒税法では、個人が自由に酒を造ることを、酒税を課すという国の都合で規制しています。
国民は税金を納めるために生きているわけではないので、税金のために自由な活動を規制するなど本末転倒というべきです。
酒税法という法律は、国会で抜本的に改廃されるべきものだと考えます。
法律がおかしいのは、国会議員を選んだ国民が払うべきツケです。
上記記事では、税務署に対する異議申立が通りづらいことについても言及しています。
ざっくり言うと、納税者側の主張が認められるのは10%くらいというと、思ったより高いという感想の方もいますので、通りづらいかどうかは人それぞれの感想でしょう。事案ごとに内容は全く違うものですし。
なぜ納税者側の主張が通りづらいのかということについては、課税処分の段階での認定が手堅いからなのかもしれません。税務署側も争いになって負けると困るというのもあります。
しかし、国税(税務署)や地方税(地方自治体)のいずれの場合でも、税金の徴収をするため強引な主張や手続をとってくることもあります。
公務員が法律や国民の権利を軽んじることは体験しないと、なかなか信じてもらえません(警察の問題と同じです。)。
それはそうと、他にも納税者に不利な問題点があります。
納税者側において取引や財産の移転等の課税に関わることについて、実体を裏付ける契約書などの資料を作成・保管していない場合があります。納税者側の説明を裏付ける資料が無いと、その説明を税務署や裁判所に納得してもらうのは容易ではないでしょう。
税務調査に入られても、きちんと言うべきことは主張して争うことをしない人が多いのかもしれません。
税務調査に入られた先の顧問の税理士でも、税務署ときちんと争う意識・方法を持っていない場合があります。
審査請求や訴訟といった手続で、行政側と争うことをためらう企業や個人も少なくないでしょう。
そのため、不服申立の手続において本当なら是正されるべきものが眠ってしまっているのかもしれません。
国税不服審判所の審判官は民間からの登用も増えてはいるものの、国税庁・税務署の職員の出身者が多いことや、国を相手とする訴訟の国側の代理人が裁判官から法務省に出向している訟務検事が務めていることなどや、裁判所調査官で税務を担当しているのが国税庁からの出向者であったりすることなど、国側に有利と見られるような状況も納税者の主張が通りづらい一因と思われても仕方ないでしょう。
よりよい国、よりよい社会にするためにも、問題のある課税等にはしっかり異議申立がなされるべきです。
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弁護士 林 朋寛
(札幌弁護士会所属)
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