12月27日に、次のニュースがありました。
長崎県の石木ダムの建設工事に関し、反対する土地所有権者らに対して長崎県が工事妨害禁止の仮処分命令を求めた事件で、写真集の中の写真が県の申立書類の中で使われていたことから、その写真を撮影した写真家が県に抗議して削除を求めたとのことです。
申し立てた県(債権者)の提出した疎明資料(ざっくりいうと、仮処分手続での証拠資料のことです。)の中で、申し立てられた人(債務者)の特定に写真が使われたようです。
その写真家の方は、自分の意図と違う使われたとして著作者人格権の侵害を主張されているようです。
(参照;写真家村山嘉昭さんのHP内の記事 ひとりの写真家として、長崎県知事に抗議文を出しました。)
このニュースを見て、私は、ツイッターで、次のようにつぶやきました。
著作権侵害でも著作者人格権侵害でもないのに、「無断使用」と問題あるかのように報道するのはどうか。 一般に、公表された著作物を利用するのに著作者の意図に縛られるべきではない。
これがどういうことかというと、次のように考えられます。
著作権の侵害の問題としては、著作権法で次の規定があります。
著作者人格権の問題としては、次の規定が本件で問題になりそうです。
第百十三条
略
6 著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。
この、著作者の名誉又は声望というのは、社会的な・外部的な評価のことです。著作者の意図や心情ということではありません。
著作者の社会的な評価を害する方法というのは、教科書的に言われるのは、芸術作品を風俗の広告に利用するなどの行為をいいます。
裁判の手続に、写真を提出されたからといって、写真の著作者の社会的な評価が低下するとは考え難いです。実際上の問題としても、裁判に著作物が提出されたら著作者の評価が低下するといったことを裁判所自体が認めることはないでしょう。
著作権や著作者人格権ではなく、一般的な人格権侵害の問題としても、
その写真家個人のお気持ちの問題ではなく、裁判で写真を用いたことが一般的に何かの人格的な利益を侵害している行為だとはいえなさそうです。
写真家の方が、人格権侵害というのであれば、どういう客観的な利益が侵害されたのかを主張する必要があると思います。
報道の自由の観点からの違法性を主張する構成もありそうです。
私としては、裁判において、証拠資料に公表されている著作物が用いられることは、ことさらその著作者を攻撃する態様でなされている等でない限り、基本的に違法にはならないと考えます。世に出た著作物の利用は、著作権等で保護されている範囲以外は、受け手の自由であるべきと考えているからです。
写真を用いたことについての問題はともかく、
今回、石木ダムの問題があることを知りました。今後も注目できればと思います。
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北海道コンテンツ法律事務所
弁護士 林 朋寛
(札幌弁護士会所属)
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