刑事訴訟法違反(開示証拠の目的外使用)の罪について

 北海道警の札幌南署が、自分が被告人となっている刑事事件(暴行)の裁判での証拠書類をブログに掲載したことが刑事訴訟法違反(目的外使用の罪)にあたるとして、その被告人を逮捕したとのことです。

 

 

 刑事裁判の手続を定めた法律である刑事訴訟法では、被告人や弁護人、これらの者であった者は、被告人となった裁判の準備等の目的以外に開示された証拠のコピーを他人に渡したり、ネットにアップしたりすることが禁じられており、違反すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金の犯罪に該当します。(条文は長いので、下にあげておきます。)被告人・弁護人であった者も対象ですから、裁判が終わった後も禁止されていることになります。

 

 この禁止の趣旨は、開示証拠がきちんと管理されてないと、証拠隠滅や関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるし、そのおそれを考慮すると証拠開示が限定されてしまうというものとされています。

 

 

 この禁止については、日弁連の会長声明で反対が表明されています

 

 私もこの刑訴法の禁止規定は反対で、すみやかな改正が望まれます。

 今回のニュースとなったように、被告人にも言い分があり、その見解を表明するのは、表現の自由として保障されるべきです。

 関係者の名誉毀損やプライバシー侵害については、開示証拠に限らず、刑事責任あるいは民事責任を問われることになりかねないものとされていますから、開示証拠に関して一般的抽象的に規制する合理性はないと思います。

 被告人の表現の自由の他に、報道機関としては、取材活動の自由の制限も問題となります。刑事事件の証拠資料という取材の資料を得るのを制限されることになるからです。そして、取材活動が制約されることで国民の知る権利も、反面として制約されると考えられます。

 警察・検察の捜査や公判活動も裁判所の裁判も国家権力の作用の一つです。どのような証拠資料に基づいて裁判がなされているのかを証拠資料に基づいて批判・検証する機会が奪われていることになります。

 もっともらしい禁止の理由(関係者のプライバシー保護など)を付けて、警察・検察あるいは裁判所に対する国民のチェックを免れるような規定は法改正で正されるべきです。

 

 

刑事訴訟法
第二百八十一条の四  被告人若しくは弁護人(第四百四十条に規定する弁護人を含む。)又はこれらであつた者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
 当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理 
 当該被告事件に関する次に掲げる手続
 イ 第一編第十六章の規定による費用の補償の手続
 ロ 第三百四十九条第一項の請求があつた場合の手続
 ハ 第三百五十条の請求があつた場合の手続
 ニ 上訴権回復の請求の手続
 ホ 再審の請求の手続
 ヘ 非常上告の手続
 ト 第五百条第一項の申立ての手続
 チ 第五百二条の申立ての手続
 リ 刑事補償法 の規定による補償の請求の手続

 

 前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。 
第二百八十一条の五  被告人又は被告人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、前条第一項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 弁護人(第四百四十条に規定する弁護人を含む。以下この項において同じ。)又は弁護人であつた者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。 

 

 

 

 【H28.3.1に札幌に移りました。】

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北海道コンテンツ法律事務所

弁護士 林 朋寛

(札幌弁護士会所属)

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